ブロローグ
かつて、世界を巻き込んだ戦争があった。
大国オーシア連邦は、10年前に起きたこの『ベルカ戦争』に関する情報の一部を開示する。オーシア出身のジャーナリスト、ブレット・トンプソンは公開された資料に記される一人の傭兵の存在、そして『鬼』という暗号に興味を抱く。
謎に満ちたこの傭兵を通して、ベルカ戦争の真相に迫ることを決意したトンプソンは、当時の関係者に取材を行う。戦争当時に傭兵の相棒を務めていた『片羽の妖精』の異名を持つ『ラリー・フォルク』にインタビューを試みる。
今もなお国境付近の紛争地帯で、傭兵として戦い続けている『片羽』が、カメラの前で語る。
「あれは雪の降る寒い日だった」
『片羽』の言葉から、物語は始まる。
GLACIAL SKIES『凍空の猟犬』
1995年4月2日
ウスティオ共和国山岳地帯、ヴァレー空軍基地。
ベルカ公国は元々財政難に見舞われていた。1988年におけるベルカ連邦法見直しによる国土縮小、東側諸邦の独立を許したことで、今の隣国ウスティオ共和国は誕生した。
周辺に位置する大国オーシアが拡大路線を採る中、未だに国土を削っても財政難に苦しみ続けるベルカ国内では、強く伝統ある国家の姿を掲げた極右政権が誕生。
1995年3月25日、ウスティオでの天然資源発見の報をきっかけにベルカは周辺国に侵攻を開始。
これが『ベルカ戦争』の開戦となる。
突然の開戦に準備不足だった各国は伝統のベルカ空軍を前に敗走を繰り返す。数日間で山岳地帯を除く全域を占領下に置かれたウスティオは外国人傭兵部隊を組織し、オーシアやサピンとの連合作戦に全てを懸けたという。
この戦乱の中、主人公であるサイファーはウスティオ空軍第6航空師団のガルム隊1番機として配属。同じくガルム2として配属された『片羽の妖精』の名を持つ腕利きの傭兵パイロットと出会う。
彼のTACネームは"Pixy”
ウスティオの最後の砦となったこの空軍基地。隣国ベルカの爆撃機が迫る中、サイファーはPixyと編隊を組んでこれを迎撃する。
司令部からの指示通りに爆撃機を全機撃沈。傭兵部隊としての初陣でありながら見事な勝利で、ウスティオの要を守り抜いたPixyはサイファーを相棒として認める。
「サイファー、お前となら上手くやれそうだ。よろしく頼む、相棒」
THE ROUND TABLE『円卓』
1995年4月20日
エリアB7R
ベルカの制空権下にある国境付近の強行偵察を命じられたガルム隊は『円卓』に向かい、ベルカの航空部隊と交戦する。
そこは各国のエースが飛び交うベルカの絶対防衛戦略空域 B7R
通称『円卓』
直径約400kmの円形の盆地で、強い磁場を形成している鉱山地帯のため通信混戦によって、部隊運用が困難な地域である。
ここでは堕とされれば救助も期待できない。階級も身分もなく条件は皆同じ、ただ己の腕のみが頼りとなる過酷な戦場。
「生き残れ」それがただ一つの交戦規定だった。
増援の敵エース部隊を撃破したガルム隊に、AWACSイーグルアイから通信が入る。
連合軍海上部隊が進軍開始という内容の知らせを受け、自分たちはベルカの精鋭部隊の注意を引き付ける陽動作戦として展開されていたのだ。
自分たちが敗れる前提の捨て駒だったことに嘆息しつつ、Pixyはサイファーに声をかける。
「よう相棒、まだ生きてるか」
DIAPASON『解放への鐘鳴』
1995年5月13日
首都ディレクタス
連合軍海上部隊の輸送路確保や地上部隊支援のミッションを経て、ウスティオ解放戦備を整えた連合軍はついにウスティオの首都ディレクタス解放作戦を開始。
ウスティオ空軍第6航空師団、ガルム隊は作戦に参加して次々と戦果を挙げる。
全区を解放した連合軍に、自由を知らせる鐘と共に民衆の歓声が沸き上がる。
そこに、敵増援として遅れて現れた二機編成によるゲルブ隊と交戦。
被弾したゲルブ2にベイルアウトを促しつつ、隊長機は戦闘を継続するも、奮闘もむなしく堕とされてしまった。
「この戦争の本質はここからだ。記事や資料によって捉え方が全く異なる。誰もが正義となり、誰もが悪となる。誰が被害者で誰が加害者か」
そして戦争はベルカ内部へと移り、活躍を続ける『彼』もまた戦争の渦中に押し上げられていくのだった。
BASTION『ハードリアン線攻略』
1995年5月17日
ハードリアン・ライン
ディレクタス解放後まもなくベルカによる核兵器、および大量破壊兵器『V2』の開発計画が明らかになる。
連合軍首脳部は核兵器査察と資源権益確保のためにベルカ国内への進軍を開始した。
越境を目指すハードリアン・ラインは、遺跡要塞グラティアントを中心にオーシア南部国境とサピン国境を結ぶ、約700kmにも及ぶ長大なベルカの防御線である。
強力な防衛システムが築かれているこのグラティサントを攻撃、ガルム隊の活躍によってベルカ国境線の要を陥落させる。
ハードリアン・ラインを突破し、主戦場をベルカ国内に移行することとなる。
また、ウスティオの別動隊が正体不明の攻撃によって壊滅状態となる報告を受ける。司令部はこの件の調査にあたる。
MERLON『空中回廊』
1995年5月19日
南ベルカ中央領 シェーン平原
シェ-ン平原にはベルカの第二次対空防衛ラインが横たわっている。この対空陣地の攻略にあたっている連合軍は、この攻勢によって国内への更なる侵攻が可能となった。
しかし、空が突如光り出し、謎の攻撃によって連合軍の輸送機が撃墜。
作戦本部より緊急入電を受け、ベルカの長距離砲撃に晒されている空軍は作戦空域を急遽離脱。
作戦目標そのものは達成したが、敵の長距離攻撃兵器によって甚大な被害を受けた。
「あれはひどい状況だった。仲間も大分やられた。上から見れば、俺達傭兵の代わりなどいくらでもいる。でも、俺達は生き延びた」
SWORD OF ANNIHILATION『巨神の刃』
1995年5月23日
タウブルグ丘陵
謎の未確認兵器は、ミサイル防衛構想の下で開発されていたベルカの対空防衛化学レーザー兵器だった。
コードネーム『エクスキャリバー』は周囲に電波障害施設、対空砲などが複数配備されて、強固に守られている。
これを破壊しなければベルカ国内での作戦展開が困難であるため、ガルム隊は援軍であるクロウ隊と共同でこの機密兵器の破壊を命じられる。
AWACSイーグルアイの指示の下、各機は攻撃を妨げる周辺施設を破壊。丸裸にされたエクスキャリバーにサイファーはトドメをさす。
「あの剣が抜かれた。やったのはウスティオの一番機!」
クロウ隊の3番機 PJ(本名パトリック=ジェームズ)は「最高のチームワーク」と歓声を上げる。
ベルカの空を守護する剣は折れ、爆炎の中で崩れ落ちていった。
MAYHEM『B7R制空戦』
1995年5月28日
エリアB7R
「よし、花火の中へ突っ込むぞ!」
国境付近に位置するベルカの絶対防衛戦略空域 B7Rでは連合軍とベルカ軍が大規模な空戦を展開している。
通称『円卓』の存在は長らくベルカの強大さの象徴とされてきた。しかし、連合軍は本日決行される作戦と共に不可侵条約の永久破棄を、国際会議場で正式表明。同時に。B7Rへの進撃を開始した。
連合軍航空戦力は既に40%損失という、敗北濃厚な戦局において緊急出撃命令を受けたガルム隊が現れる。
「識別信号確認……ガルムだ、援軍はガルム」
戦線を復活させたガルム隊は、味方のクロウ隊やオーシア空軍と共にベルカ空軍を追い詰める。
「悪魔だ…」
「そんな生易しいものじゃない。ああいうのはな『鬼神』って言うんだよ」
ベルカ基地から増援に出たエース部隊を含め、次々と敵を撃墜するサイファー。
「すげえ! サイファーが敵機撃墜!」
「円卓が生んだ鬼か…」
その戦功にPJや味方機は思わず声を上げる。
敵機を全て撃墜して、B7Rの激戦を制したガルム隊。エースを失ったベルカ空軍はもはや脅威ではなかった。
『鬼神』と呼ばれた傭兵が凄まじい活躍を挙げる一方、南ベルカでは厭戦ムードが漂い始めていた。ベルカ発祥の地である北部の防衛線にされたため、住民たちの不満は爆発。各都市で非武装宣言と共に、連合軍への無血開城がされていた。
防衛拠点の構築もままならないベルカ軍は北への撤退を繰り返していた。
戦争終結への足音は近づいていたのだ。
「皆あいつの姿を目に焼き付けようとしてた。俺も、もう少し見ていたかった」
THE INFERNO 焔
1995年6月1日
工業都市ホフヌング
連合軍はベルカの軍需産業心臓部である主要工業都市ホフヌングを夜間強襲。
敗走を続けているベルカ軍だが、未だに一部都市では抵抗が続いている。
終戦に向けて生産能力を根絶やしにするため、作戦参加の要請を受けたのだ。
連合軍爆撃機の援護をするものの、味方のなりぶり構わない爆弾投下に嫌悪感を示すPixyとPJ。
さらには、ホフヌングの完全放棄を決めたベルカ軍は、連合軍に何一つ残すまいと自分たちの町を次々と焼いていく。
「戦う理由なんて誰にも解らなくなっていた。ただ、世界が悲しかった」
「だから、俺は……」
THE STAGE OF APOCALYPSE『臨界点』
1995年6月6日
バルトライヒ山脈
スーテンドールは南ベルカ国営兵器産業廠が居を構えている工業都市で、ベルカ軍による抵抗が未だ続いていた。
『バルトライヒ山脈』を最終防衛線と定め、連合軍の進行を阻止し続けていた。
ガルム隊は連合軍地上部隊援護のため、敵航空戦力排除を命じられる。
作戦を開始する中、連合軍作戦本部から緊急入電が入る。核を搭載したベルカ爆撃機部隊がウスティオに向けて飛び立ったのだ。
ガルム隊とクロウ隊は爆撃機の迎撃にあたる中、敵が不審な動きを見せる。
「もはや友軍ではない。躊躇するな、撃墜しろ」
ベルカの航空隊が自軍の爆撃機に向かって攻撃を始めていた。
仲間割れを起こしているベルカ軍の異常事態。これを好機と捉えた連合軍は空域にある爆撃部隊を全機撃墜する。すると、突然視界が白く染まる。
「こちらイーグルアイ! 各機、損害を報告せよ!」
「こちらクロウ3! ネガティブ! 状況確認不能!」
「くそっ! 計器がいかれた!」
「さっきの光……一体何だ!?」
通信が困難になるほどの爆発が起きた。電磁波の乱れと共に計器類も正常に動作しない中、爆発の余波から立ち直りつつあったサイファーにPixyは告げる。
「相棒。俺は……戦う理由を見つけた」
「ガルム2、戦闘宙域外に離脱中。ピクシーどうした? 応答しろ!」
「悪いな、ここでお別れだ」
混乱を極める状況下、Pixyは消息を絶った。
「当時学生だった私の脳裏にも、あの日のニュースは焼き付いている。ベルカの地で、彼らの手により七つの核が起爆した」]
THE FINAL OVERTURE 『終局の序曲』
ベルカの強国主義者は連合軍の侵入を許せなかったのか。公式記録では死傷者は12000を数える壮絶な自決行為。
事実上、ベルカ戦争は終結を迎えており、連合軍指導によるベルカの暫定的新政権は発足する。
しかし、北部に脱出した残存部隊の抵抗はまだ終わらない。
政治改変、軍部解体命令に従わない師団が未だ存在しているのだった。
連合軍は、大規模なベルカ軍残存部隊の掃討作戦を開始。
消息を絶ったPixyに代わってクロウ隊のPJが新たなガルム2として合流。
新生ガルム隊は掃討作戦の中、巨大な格納庫が発見する。既に兵器は持ち去られており、連合軍上層部は調査を進めていく。
そして1995年6月20日、北東部の海岸アンファングにてベルカ残存部隊が集結している情報を受ける。
連合軍は傭兵部隊による極秘単独任務として、これを追撃して壊滅させる。
この日、ベルカ暫定政権と連合軍の間で停戦条約が結ばれた。
オーシア優位の一方的な条約であったが、ベルカ戦争は一応の終結。
数年にわたって変動を続けてきた国境線も大きな代償と引き換えに落ち着きを見せた。
そして、戦いの舞台はテーブルの上へと移され、開戦に踏み切った最大の要因である『地下資源』の利権を巡って各国の政治家たちはしのぎを削ることとなったのだ。
「こうして半年の時が流れていく。そして、ここからが隠された真実の歴史」
「私はその事実に目を見張った。『彼』を追いかけてきたことに間違いは無かったのだ」