ゲーム 作品解説

『Life Is Strange』考察 レイチェル・アンバーという役者の正体について

誰もが嘘をつき仮面を持っている

ライフイズストレンジのややこしい点として作中のキャラは皆、自分たちの知りえる情報や憶測をそのまま主人公に伝えていること。
その結果、探索すればするほど「誰の主張が正しいのか掴み切れない」という問題があり、そこがストーリーの奥深さや難解さに直結しているとも呼べます。

多くのユーザーが混乱した渦中にあるのが主人公の一人であるクロエの親友でもあり、行方不明となったアルカディア・ベイにおけるブラックウェル・アカデミー出身のレイチェル・アンバー。

彼女の気ままな振る舞い方や危うさは無印時点でも描写されていましたが、印象としては悲劇的な末路を迎えた人物というもの。
しかし、あまりに同情の声が寄せられていることに疑問を呈してほしかったのか、噓を続けながら他人と関わりを持つか否かという前日譚『ビフォア・ザ・ストーム(BtS)』では重いテーマをこれでもかと主張される作品となり、レイチェルはまさしく嘘に翻弄される少女として描かれてきました。

これらを踏まえて無印を改めて見直してみると、一見悲劇性のあるヒロインとして片づけられるようで、久々にプレイしてみると印象が全く異なっていたので思わず筆を取ってしまいました。

レイチェル・アンバーの実像と虚像

無印の主人公マックスの視点では見えなかった彼女の人物像は、クロエや両親がコントロールすることができないほど周囲を危険にさらしながらも魅了し続けるというまさに台風の目。

本編直前の時間軸においてもボルテックス・クラブに参加した社交的な一面を見せつけているためか、マックスの聞き及ぶ範囲では一部の学校内の人物たちからは優等生かつビクトリアも一目置いていて親しかったなど、的外れな意見を見せているほど多面性を持っている。

ここで面白いのが、プレイヤーたちも同じように、知り合った彼女に対して印象や意見が異なっているという点。
自分に優しく接してくれたレイチェルに対する心情や考え方はクロエに感情移入、あるいは無印本編との繋がりを意識してかレイチェルとの特別な繋がりを望む選択肢を迫ることが多い。

痛みを共有するという発想に至らないまま、自分を犠牲にし続けることもできますが、基本的に自ら進んで彼女と親しくなる関係性はまさにクロエの道筋。
また、レイチェルの父親であるジェームズを糾弾するような考え方を持つなど、彼女にとっての特別に位置できるクロエを望むようになっていますが、二人の結末はご存じの通り。

その愛されるべきヒロインであるはずのレイチェルに振り回されてきた人々の代表として対立したのがビクトリア・チェイスでした。
彼女は心に秘めている劣等感を常に覗かせており、レイチェルに対するコンプレックスに起因しているという見方もできます。
しかしそれだけではなく、人気者で優秀なレイチェルは周りを好き勝手に振り回すという点で、能力を持ちながら自信が持てないビクトリアは学園の嫌われ者として相容れないものを感じていたのは間違いありません。

もっと言ってしまえば、周りを心の中では認めないままでも愛想よくしながら付き合えるレイチェルは常に多くの繋がりを求めながら、周囲となじもうとしない気質がありました。
それはボルテックス・クラブにおける態度にも表れていたようで、ビクトリアの無印におけるマックスに対する感慨として「自分は違うという気取った態度は嫌い」というのも嫉妬心を刺激するのと同時に、明確に自分たちを見下していたレイチェルを彷彿とさせる言葉でした。

親友としてのクロエをないがしろにしているとまでは言い切れませんが、レイチェルは特別であると語りながらも、常にクロエ以外の誰かとも接点を持ち続けていたこと。
それによって、無印では関わりを持つべきではなかった人物たちとの交流も窺えるようになり、その原動力も実の母親であるセラあるいは、ぽっかりと空いてしまった父親に代わる孤独を埋めようとしたまま『BTS』から本編に至ったという結末でした。

レイチェルは相手の望む姿を見せてきた

皮肉にも彼女の本質はジョイスなども勘付いているようで、BTS時点でもブラックウェルを去ってしまったエリオットの主張である「君はレイチェルにとっての一番ではない」という言葉がすべてを表しています。

エリオットもブラックウェルに通っていて学費免除を受けるほど優等生でしたが、用務員であるサミュエル曰く見せようとする姿しか見せたがらない、と語っているように優等生の奥に秘めているものという意味ではレイチェルと似ていました。
ここで肝要なのは、エリオットの場合はクロエに対する偏った愛情でしたが、同時にそれは似た存在として「彼女は役者である」というレイチェルの本質を突くに至っており、後にジェファソンがカメレオンと形容したようにその時々によって違う姿を見せているという正確な人物評でした。

クロエにとって誰よりも味方をしてくれる唯一無二に思えても、本人の自覚していないところだったといえどレイチェルはクロエを代替品のように扱っているという矛盾。
授業を抜け出す相手もクロエという必然性はなく、酒を盗んだことに巻き込んで突き放したり、ルートによっては労いの言葉をかけるクロエと異なって、代役であるビクトリアに攻撃的な態度を示して陥れるなど、情緒不安定な振る舞いで他人を傷つけてしまうのは実の母親譲り。

クロエが退学かどうかの瀬戸際という事情を踏まえると、負い目を感じる様子もそこまで見られないままアルカディア・ベイから逃げ出す算段をつけ続けており、クロエの誰かと一緒に過ごせるなら悪くないという本心に至ろうとせず、むしろお構いなし。

支離滅裂であるように思われたエリオットのクロエに対する忠告は的を射ており、それは無印で「運命の人と出会った」という最後に交わした言葉や廃品置き場での置き手紙、フランクのRV車を調べた際にクロエに対して最悪に近い形で露見してしまいました。

クロエに限らず後のフランクもジェファソンも「自分が彼女に最も相応しい相手であった」と自負しているなど、結局のところ、誰が運命の人なのか彼女自身にしか与り知れないようになっています。

座席に名前を記しているなど、ジェファソンのお気に入りの座を射止めていたのか、ステラによると「レイチェルとジェファンソンは関係を持ってる」というゴシップ的な主張も、見当違いの憶測と切り捨てるには無理があるものとなっています。

廃品置き場の隠れ家に捨てられていたレイチェルの置き手紙も、クロエが怒りそうな相手としてフランクの可能性も示唆されていますが、学校の近くの夜で出会ったこと、被写体として撮影されていたことを含め、後ろめたい出来事があっても拒絶に至らなかったという点ではジェファソンへの想いを綴った手紙だったのでしょう。

一方、フランクもクロエに嫉妬するほどレイチェルに思い入れがありながらも、薬物から乱暴な姿を晒してしまったので、距離を置くようなやり取りも交わしてます。


実際、商売の手伝いをしてデイビッドに疑いを向けられるなどもありましたが、妙なところで一線を引いていたのが猶更フランクの嫉妬心を煽っていたような気がします。
そこから芸術志向な気質も相まってジェファソンに傾向したような気もしますし、結局のところ、誰を「一番に据えるか」はその時々によって移り変わっていたのでしょう。

もともと、クロエが関わりを持たなかった世界でも行方が知れなくなっており、レイチェルがブラックウェルに在籍し続け、彼らとの接点を持ち続けている以上は身の破滅は避けられない運命なのでしょう。BtSのラストでフラッシュとシャッター音が鳴り響く「暗室」における、繋がらないレイチェルの携帯が映し出されている場面。

確かにレイチェルが被写体となっているシーンを意味しているのはありますが、この時点ではケイトと同様に彼女はまだ存命であるので「暗室」という悲劇の象徴であると同時に、絆を築いたクロエとの繋がりが断たれて、知らない遠い世界に行ってしまった場面という意味でもあるかもしれません。

持つ者と持たざる者の隔絶によって起きた悲劇

役割上は悲劇のヒロインを演じてはいますが、文字通り彼女の本質は周囲を惑わし続ける魔女だったのかもしれないし、少なくとも無印時点ですら決して無垢で優しい善良な人物として描かれておりません。

レイチェルの捜索に巻き込まれた場合は、トイレの一件から延命されたクロエがやがてジェファソンに射殺されるという顛末が用意されており、それを防ぐためにはマックスの力が不可欠だったことを考えると、クロエは運命の終着点として魔女の災いに巻き込まれていたわけですね。

レイチェルが他人に依存する危うさに翻弄され続けた結果、彼女は役者として相手の望んでいる姿を演じ続けているために、心の内を晒し続けてくれたクロエとは対等な関係を築けなくなっていたという、ある違和感を感じるようになったのかもしれません。

そもそもレイチェルも「他人基準では十分に満たされている側の存在」であり、ジェファソンですら社会的に成功を果たしているので、そんな彼らに持たざる者たちが振り回されるという形容しがたい関係性が生み出されています。

ネイサンも父親代わりとして慕っているジェファソンに認めてもらいたいがために、レイチェルという被写体を選んだことで彼の運命も決められてしまいました。
「認められていない人間たちの苦しみを都合よく利用している同族(ジェファソン)」が原因で、死に至ることとなったのは恐ろしい皮肉でもあると思えてしまいます。

フランクは薬について罪悪感を持ちますが、結局彼も恋人としてのレイチェルを信じ切ることができなくなってしまったという点で、荒れていたクロエと同じだったのでしょう。

「誰かの特別であること」を望んでいた「持たざる者」であるクロエは常に選び取られなかった存在として描かれており、父親の死からマックスとの別離、母親であるジョイスもデイビッドの存在によって自分が関わることがない場所で一人満たされていることに苦しみ、その反動によって危険な目に遭うようになってしまいます。

マックスとの再会がクロエにとってどれだけ救いとなったのか、それは不器用ながらも言葉にしようとした本人の語っている以上に、それは計り知れないものでした。

次回、マックスの悪夢の意味とラストの「犠牲の選択」の意義について

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