ゲーム 作品解説 解説

【Spec Ops: The Line】主人公になりきれない男が招いた悲劇

いいゲームだった。二度とやらない。

ゲーム主人公という存在はプレイヤーの目や手足として動くものであり、何に重きを置くのか捉え方は人それぞれであるが、このゲームのメインキャラクターを言い表すとすれば、愛される主人公になりたかったキャラクターであるという点だ。

主人公として、自己投影だけではなく憧れや共感に基づいた格好いい生き様、現実に生きる我々に学びをもたらしてくれるような存在。我々がお手本として目指したい、ゲーム史に残ってきたような愛されるキャラクター。

あなたの好きなゲームの主人公は?と聞かれて思い浮かぶキャラクターたちがそれにあたる。

それになりたかったのが本作の主人公、ウォーカー大尉なのだろう。

皮肉なことに、この作品のように戦争を題材としたFPSゲームでも愛されるキャラクター達は存在している。CODがまさにそれだ。

彼らはプレイヤーと同じ目線に立ったうえで任務を遂行し、世界や人を救うための礎となり、時に犠牲となることはあれど、最後は失敗しなかった。

しかし、このウォーカー大尉にはそんな都合の良い世界が待ち受けてはいなかった。

自由を行使する破壊者

このゲームのストーリーの発端は、功を焦って無秩序と化したドバイをまとめようと独断専行に走ったコンラッド大佐であった。

だが、状況が好転せず、見通しも立たないのに自分の願望を叶えようとひたすら突き進むとどうなってしまうのか。

命を救われて尊敬していた上官と同じ轍を踏んでしまうのが主人公であるウォーカーだ。

時系列を整理すると、デルタフォースの隊員としてコンラッド大佐率いるエリート部隊である「陸軍第33歩兵部隊」や現地民間人の救出任務にあたっているという内容から始まっていた。

しかし、33部隊が民間人を殺しているような疑惑の場面に出くわす。そして、先にドバイに潜入していたCIAが33部隊に殺害されていくなど、混迷を極める状況下。そんなカオスに仲間たちも消耗してしまうも、ウォーカーはデルタフォース出身の兵士として自負を持って鼓舞する。

ここを見れば頼り甲斐のあるいいリーダーだとプレイヤーも感じるだろう。

だが、これは前後不覚な場面での決断の危うさ、極限状態でのミスというものをこの上なく冷徹に描いた作品だった。

ウォーカーは毅然としながら立ち向かっていこうとするのは主人公としての器でもあった。

しかし、そんな彼も次第に余裕を無くし、敵に向けて容赦が無くなり、淡々とプロとして動こうとした序盤から一転して敵対者を撃つ命令を下すときにも殺意全開となる。

そして、仲間たちも彼(プレイヤー)の指示通りに動かないようになってしまう。

自らの手で状況を打開しようと選択し続けた末に理性が壊れ、無秩序が全てを支配してしまうのだ。

ドバイに自由は存在しない

基本的に物語を軸に置いたゲームというのはプレイヤーが結末を見届けるために能動的に取り組むものだ。

テレビドラマや映画と違って物語を進める選択権はプレイヤーにあり、どのくらいのペースで進めるか委ねられている。

そしてこれは意地が悪いの一言に尽きるが、プレイヤーというのは自分が操作している主人公が報われたり、正しさや信じられる部分があることを念頭に置きながらストーリーを進めてしまう。

ウォーカーの部隊員である仲間アダムスとルーゴの二人も同様で、プレイヤーが選択を下そうという場面に意見を提示してくれる。が、両者は決して相容れることはなく常に二者択一を迫る。そして、その選択が招いた結果を目にして、選ばれなかったどちらかが愚痴を吐いてしまう。

まるで別の選択を採れば変化をもたらせるという希望を持たせるような物言いに感じてしまう。

ここでプレイヤーも言いたくなるだろう「そっちも文句言いながらついてきているじゃないか」と。

「手は尽くした。我々に出来ることはない」

混沌とした状況がそう教えてくれていたのにも関わらず、闇雲に進み続けてきたプレイヤーはゲーム上の選択の正しさに囚われている限り、ドバイから抜け出すことはできない。

ウォーカーが自分自身の過ち、何もできることはあるはずだという身勝手なヒーロー願望を認められない限り、この地獄は続いていく。

そして、エンディングの内容からしてドバイに残る選択を続け、そこで行動を取っても何も結果は変わらない。

あなたはこのゲームから降りるべきなのだというメッセージを描いた、画期的な作品だったのだ。

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