天地を覆うほどの炎の災厄に見舞われたにも関わらず、今もなおこの惑星に根付こうと奮闘する灰被りのルビコニアン達は断末魔の叫びを地に響かせている。
その一方で<アイビスの火>の大元である筈の技研都市そのものは過去の遺物どころか、こうして橋上で悠然と立ち尽くしている自分の眼前で、金のなる木という形質を取りながら数多の半壊したビル群として未だに天高くそびえ立っているのが見える。
コーラルを資本として吸収するために争いを繰り広げ、それを妨げようとする対抗馬のベイラムが退いた今、三つ巴の戦いが急速に収束してアーキバス陣営の実質的な勝利といえど、ルビコン解放戦線は未だ健在。
だが、この星で多くを望む奴ほど、長く生きられた試しがない。
先の戦いであの石橋を叩き割るミドル・フラットウェルが自ら戦線に立って強硬手段に打って出てきたのであれば、この先々も解放戦線のメンバーは屍を積み上げることに躊躇しないだろう。地下に隠された宝の接収を終えれば、ならず者はコーラルを吸い上げたバスキュラープラントの奪取を必ず目論むと本部は息巻いている。その時がいわゆる天王山というヤツだ。
宝そのものからすれば盗人猛々しい話だな、とV.III オキーフは内心呟く。
人という存在をより高位に引き上げるコーラル――あの御伽噺の担い手はどうやら現れなかったらしい。
だが、今もこうして生きている人間の傍らに、確かに意思を持った、人知を超えた見えざるモノが介在している。
両者の橋渡しとして共感に基づいた交信役を務めているコーラルの「女神」とやらが本当に実在するのであれば、かのサム・ドルマヤン帥父の教えを金科玉条としていながら、もはや女神の微笑みはルビコニアン達に向けられていないことを男は知っていた。
傍目からは理解が叶わぬ出来事に思い煩い、絶え間ない不安と死客に追われ続ける日々をここまで過ごしてきたが、ようやく安らかに眠れるのだろうか。
コーラルの流れが焼き付いていた脳裏に響き渡る、あのさざ波を打つような感覚。
その交信とやらが本当に交わされていたら、耳を傾けた自分にいったい何が変えられていたか時々考えることはある。そいつがどんな言葉をかけてきて、かつての俺に何を求めるのか、もはや知る術はないことを未練に感じないと言ったら噓になるが――。
それでよかったんだ、と青白い片頬を歪めて自嘲するオキーフは天を仰ぐ。
先行した隊員たちの報告通り、頭上に広がる空は霧に覆われて何も見えないが、こうして深く息を重ねるたびに心地良い冷気が肺を満たす。
心なしか、煤と埃に汚されたルビコンそのものの空気より澄んでいるように思える。
これが閉ざされた地下世界のものだと思考してしまう途端、他の連中は息苦しくてたまらなくなるらしい。
まったくうんざりさせられるほど現金な奴らだ。笑わせる。
「……結局、気持ちの問題か」
だが、それも人間だ。