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ACⅥ 「コア理論」というフロムゲーの作家性が言語化された仮説について

『アーマード・コア』シリーズと『ソウルボーン』の共通項は「人の意志」

「ダークソウル」を作品に触れたことが無い方々にもわかりやすく言い換えると、人としての生を受けた存在が「闇」と定義づけられながら神様たちに迫害され、紆余屈折を経て神話の時代から人間の時代に脱却する話です。

『ブラッドボーン』と『SEKIRO』は、人ならざる異形の神秘や力を追い求め、それに振り回されて狂った者たちと巻き込まれた側である人間たちの物語でした。ついでに『エルデンリング』も一言で言ってしまえば、星として降ってきた宇宙人にナニカサレタ世界の話です。

ACシリーズの原初とは、自覚の差はあれど箱庭の世界を破壊して脱却する主人公をプレイヤーが見届けるもの。

そういった意味では、神々や上位者といった人知を超えた強大な存在から、人という矮小な存在を描いた作品としてこの対立軸が置かれているという意味でも、ソウルシリーズにもフロム社が描いてきたアーマード・コアと相通ずるものがあったのだと言えなくもないでしょうか。

誰が言ったか『アーマード・ソウル』というソウルシリーズの遺伝子を持って生まれているというのがありますが、元から『ソウル』シリーズと『アーマード・コア』シリーズはフロム社が有していた作家性が合致とまではいかなくても、通ずる部分は含まれていました。そこから生みの親である宮崎社長によるソウルボーンシリーズの大躍進にまで繋がったのはご存じの通り。

そして、AC6という作品の性質としては「死にゲー」というゲーム性以前に『物語的なテーマ』として描きたいものがあったため、意図的にソウルシリーズと似せたものとして今回製作された印象が個人的にありました。

なので、今回は私たちが口にしがちな「フロムゲー」と言ったゲーム性に対する言葉遣いの前提にある、フロム社の持ち得ていた「作家性やメッセージ性」について語っていきながらAC6のテーマを語っていきたいと思います。

「人が人として戦う」ために必要な兵器

AC6というシリーズ最新作品の感想回でもあるのですが、あまりにソウルシリーズを彷彿とさせる難易度調整など様々な評価の声や熱い語り合いが繰り広げられていることから、リリースから時間を置いて落ち着いて語れるようになるまで、思考を整理しつつ様子見が続いてしまった感じですね。

今作でプレイヤーたちに是非を問われたのは無人兵器のみならず、LCやHCという異なる人型兵器の台頭による、ACの地位が危ぶまれていること。シリーズの看板を背負う名前の、その存在意義が問われていることにありました。

「AC弱くないか」「遠距離戦が機能しない」という意見が出ているのも真っ当な指摘ではあるのと同時に今作で驚いたのは、こういったプレイヤーのツッコミにも作中の世界観の一部として理由付けがもたらされていることでした。

ルビコンではその考え方を抱いたものが少なくなかったらしいです。スネイル閣下はACの優位性について情報ログで問いかけていました。

人ならざるコーラル波形宇宙人であるエアも同じく問い続けてきた命題です。

「無限の選択と淘汰を繰り返す」つまりは「人間が生きるためのアセン(選択と淘汰)」を実践してそれに適している兵器。

人の生き方、その形質を表出化させるのがACであり、提唱された「コア理論」

「アーマード・コア」におけるコアとは、すなわち代替不可能な部品であるパイロットであり人間そのものという「仮説」を我々は投げられたわけですね。

『アーマード・コア』における「人の可能性」の仮説

アーマードコアは傭兵もとい人間による戦いそのものを描いてきましたが、今作で問われたのはACという種の優位性で、メタ的にもACパイロットは逆境に晒されていました。

執行者

元も子もない言い方をすれば他にも強い兵器が揃っている中で「よりによって『AC』になぜ「人間」が乗らなければならないのか」というテーマを掲げる意味では、人体的な駆動部を生かした近接戦があれほどピックアップされたのは必然でした。

代替可能なMT搭載戦車

カタフラクトという外付けの代替品であるMTの扱いは象徴的で、ACに発展させたMTも同様に装備パーツとして「コア理論」による有人機の装備拡張という模索過程によって生まれたのか。いずれにせよ、大型の戦車をあのMTの装備として勘定するのは難しく、むしろパーツとして『剝き出しの弱点部位』としてどちらが主と従であるのか一目瞭然の兵器となっております。

無人人型兵器 エンフォーサー

また、遠距離戦で有人機かつ人型機動兵器の優位性なんてないじゃないかなど議論が重ねられ続けたことで、実際企業サイドも封鎖機構や技研の戦力と方針を採りたかったのか、戦勝国アーキバス社は秩序サイドである惑星封鎖機構の技術を接収した途端に、ACから脱却しつつあった路線としてペイター君に執行機体を預けたりバルテウスの有人化に手を出していました。

アーキバス先進開発局の設計した長距離戦向け FCS。

接敵以前での封殺を目指したコンセプトモデルだが、これをコア理論に対する揺り戻しであると見なす向きも多い。

FCS「VE-21A」説明文より抜粋

人間がシステムに仕えているのが封鎖機構だとすると、資本主義による経済活動という社会システムに仕えるのが企業。人類的には宇宙に出てもそれは相変わらず。

自分たちの食い扶持をもらうためだけに他の惑星に侵略して開発事業を設けなければならないですが、資本主義である以上は富む者はそれ以上に富む一方で、失敗して成り上がることができなかった者も当然いるわけです。そんな人はルビコンのような辺境の惑星に流れ着くわけですが、もはや人間は地球を離れたことで開発競争自体の調停役や線引きが設けられていないので、マクロ的には所有権を握った緩やかな戦争が引き起こされても、それを黙認するという歪んだ世界となっておりました。

水の惑星に閉じ込められた国境の線引きや経済や開発の停滞を乗り越えた先は、弱者がひたすら虐げられる不変不動の宇宙世界だったわけです。

ラスティの「狙撃には自信がある」という言葉も、乗機であるスティールヘイズに嚙み合わないという指摘もありますが、これも元を正せばシュナイダーACや例の新型は立場上乗りこなしているものに過ぎない。

AC乗りとしては自らの選択に基づいて機体を組んで、自ら選択して変化の渦中に身を置き続けてきたことで鍛え上げられたのが「突出した個人」であり、異なる企業のパーツを取り寄せてACパイロットとして戦いの道に生きるフロイトも技量面というアプローチの差はあれど同様です。そしておそらく、野良犬というコンプレックスを超えようとコンセプトは据え置きで細かくアセンを変え続けていたイグアスも。

彼らはシステムの管理下に置かれない個であると共に、自らの選択権を行使する人間たちだったからこそ強者であり、あるいは力を求めていたわけです。

「人間」が諦めを踏破するフロムの作家性

ミッションであるにも関わらず、何度もリトライして挑み続けるというソウル的なゲームコンセプトは何なのかと問いかけてしまうと高難易度というお家芸に目が向いてしまいがちになります。なんで俺に気持ち良くACさせねぇんだ

しかし、フロム社の場合は簡単にクリアされたら悔しいという屈折した言葉を用いながらも、諦めないことが人の取り柄だとしている姿勢は物語としても昇華され、決して折れることなく「挑み続ける不死の精神という強さ」として描いていることが、プレイヤーに対する遊びの提供に繋がっているのだと思われます。SEKIRO例:「そなたなどまだまだ子犬よ」→「腕を上げたねぇ狼」

ACシリーズにおいても自分が求めるもののために試行錯誤して戦いを選び取るという意味では、(肉体の有無を通さずに)あらゆるキャラクターを通して描かれてきました。中には、ACから異形の兵器に乗り換えたりする面倒が嫌いな人や自称ドミナント隊長とかもいましたが、基本的に我を通そうと好きにやって、好きなように死のうとしている連中です。そうして、彼らは主人公と愛機として組まれたACに討たれていきました。

そして、ソウル系統のシリーズでは自ら選んだステータス数値を強化したり装備を見直してビルドを整えることも、いわゆる人間の意志が介在している「選択権(アセン)」です。これを駆使して障害を乗り越え続けるという意味では、やることに差はありません。

ACを超越する兵器が多い、なぜチェックポイントを設けてリトライありきの難易度でアセンが変えられるゲームにしたんだという批評も「コア理論」という、いわゆる「人ならざるモノ」「型式やカタログスペックの範疇に収まる兵器」ではなく、己の選択によってパーツと武器を手に取るACで、立ち塞がる強大なモノを打倒し続けられる「選択に基づいた個の到来と力の証明」を求められたものでした。

フロム・ソフトウェア社の作家性を根付かせていた諦めの悪い人間に対する苦難、いわゆる「イレギュラーと成るための試練」という意味でゲーム性を得意とされているソウルシリーズのノウハウを付与してお出しされた「アーマード・コア」新作という意味でも、ACという己の肉体を通して、シリーズ経験者であれば尚更の話、その責務を実際に果たして「証明して見せろ」という言伝を預かっている10年ぶりのシリーズ回帰作だったわけですね。

言葉足らずが基本だった作品群でも時を経て、シリーズ新作として感慨深いメッセージが込められていたというお話でした。

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