『ACE COMBAT 04』のメビウス1というのは、ある意味では『ストレンジリアル』の世界において象徴的だ。
彼の存在は戦局を覆す「特異点」であり、それは当時のエルジア共和国にとって忘れ難いトラウマを生み出した。
マティアス・トーレス艦長は大陸戦争当時、旗艦タナガーの艦長として大陸戦争末期にメビウス1と交戦し、撃沈されている。
そして、トーレス自身と船員たちがその戦いを生き延びたことで、公式設定で彼は「コンベースの英雄」と呼ばれた。

「特異点」の目撃と英雄賛歌
ここでトーレスが経験したのは一人の個が、戦争全体の力関係をひっくり返すという「特異点」と「英雄賛歌」
つまり「普通の海軍軍人」であれば戦争は「兵力や物資、補給経路や艦隊、航空隊によって決まる」と考える。
ところがメビウス1はその常識を破壊し、一機の戦闘機が敵艦隊を撃破し、大陸戦争そのものに影響を与えた。
トーレス艦長は、その「特異点」を敵側から直接対峙して生き延びた人間だ。
特に、沈没した時も適切なダメコンと避難指示で乗組員のほとんどを脱出させるなど、経歴だけ見たらとんでもない将の器である。
だが、不幸にも彼が惹かれたのは勲章でも功績でもなく、自分の力量とメビウス1という『特異点』だけだった。

『虐殺を用いた救済』理論の始まり
大陸戦争終戦後は海軍大学校に配属され教鞭をとる。
しかし、DLC本編9年前の2010年4月、危険思想を海軍大学校で流布していたことが発覚。自宅謹慎が言い渡される。
この時点で彼は『虐殺による救済』を掲げていたことが分かるように、その影響をもたらしたのは、大陸戦争での敗北の経験が大きいことが窺える。
あるいは生まれながらのイカレ野郎だったのかというのもあるが、個人的にはユージア大陸紛争時代に砲術士として参戦した功績から勲章を受け取り、賛美されたことが大きいと考えている。
そもそも『ACE COMBAT』の世界では、メビウス1のような「一人のパイロットが戦争の流れを変えてしまう存在」が繰り返し描かれ、そこに着目したトーレスは「一人の人間が世界を変える」というエース神話を、極端な形で内面化した人物である。
つまり間接的には「撃墜スコアを稼いだり華麗な動きで敵を屠ることを誇るプレイヤー」との対比に近い。
つまり、戦争こそが「彼の生きる道」であるという自負心が養われたとするなら、「長期間海底に閉じ込められて精神がおかしくなった」とされる以前から、艦長でありながらも若いころ自慢として未だに語り草にしている砲術士時代から彼の歯車は狂い始めていたと思えるのだ。
「戦争を終わらせたい」わけではない
現場に復帰して任されたアリコーンは試験航行中に座礁し、トーレスと乗員は海底に取り残される。
そして救出されるまで698日。
この約二年間という時間は非常に重要で、海底にいる間にも戦争は進み、人々は生き、政治は動き、そして彼が戻ろうが戻るまいが、世界は彼の存在を必要としていないまま進み続ける。
その意味では「自分が世界から切り離されても、世界は何事もなく動いている」というのを目の当たりにしてしまった。
トーレス艦長は救出された後に、普通の軍人として「もう一度戦場に戻って戦う」という道を選ばない。
むしろ「自分が世界に戻る」のではなく、むしろ「世界の方を変えてしまう」という発想に向かっている。
海底では、戦争のニュースも戦況も見聞きできず、直接参加することもできない。しかし、その間にも世界が続いていく。
ここで「自分が世界から切り離された」という、おそらくここから世界そのものへの不信でもある「一種の独立願望」が生まれた。
そしてこれは、かつての『国境なき世界』の動機づけにも近い。
歪んだパズルは一度リセットするべきだ
このV2で全てを『ゼロ』に戻し、次の世代に未来を託そう
エースコンバットZERO THE BELKAN WAR

国家や社会システムに属するよりも「なぜ世界の都合に自分が従わなければならない?」という疑念からやがて「自分が世界に合わせるのではなく、自分の一撃に世界を合わせさせる」という逆転現象が起こる。
だからこそ「一発の砲弾(V2)」が彼らにとって素敵な自分の意思を体現させるものとして重要になる。だから嵐の中で「30km先の目に2発に1発は命中」とかいう時間稼ぎにしては怪しすぎる己の武勇伝を艦長も唐突に話し始めちゃう。
アリコーンの600mmレールガンは単に強力な兵器ではなく、トーレスにとっても「自分の意思」を世界全体に強制するための媒介になっているのだ。
英雄神話を邪悪な形へ反転させた「1000万人を救うために100万人を殺す」というのも、その「救済」は彼曰く「美しい」「エレガント」なものとして語っており、つまり「世界を変えるには、世界に適応する必要などない」という教えを船員たちに説く、行くところまで行っているイカレ教祖になってしまっていること。
戦争を終わらせるために、まず巨大な犠牲を発生させるのも、実は先人たちが既に踏んでいる道ではあるのだ。

世界の命運を握る「権利の主張」
「一人の人間が戦争を終わらせることもできるなら、そのために100万人を殺してもいい」という思想をトーレスの人物造形として組み立てるなら、「1000万人を救うために100万人を殺す」という思想も、単なる最大多数の最大幸福論的な功利主義ではない。
「世界を救う」という言葉を使って、自分が世界を支配する権利を正当化しているのだ。そして最終的には「救済」すら剥がれ落ち、自分の一撃で世界が変わることそのものが目的になっていることが窺える。
「その力を何のために使うのか」を己の存在証明に全て傾けたのがトーレスの在り方だ。
だから彼の「美しい」「エレガント」という言葉は、より素敵に敵を屠って世界に自分の存在を示すという悪魔の囁きになる。
彼にとって砲撃は、自分が世界に対して主導権を握る瞬間になっており、それについていく船員たちは彼に平伏している。
698日間も世界から隔絶された結果「世界に合流する」のではなく「世界そのものを自分の一撃で従わせる」という思想に到達した人物は、ありコーンと共に海に沈んだ。
だが、彼の言葉に従った356人中330人が生存し、その後、そのうち30人が艦を離れている。
この乗員30人は、トーレスの計画を継続するために組織の外へ出た人間たちであり、作中でもオーシア軍・エルジア軍双方への妨害工作を行っていたり各地で工作員として活動を続けていたとされる。
この30人については全員死亡・逮捕という処理には至っておらず、むしろ、少なくとも一部についてはその後の消息が描かれていない。
トーレスの思想を共有し、軍組織の中に入り込み、独立して工作活動ができる人間は「フギン&ムニン」とは別の意味で生きているのだ。
『英雄神話』の陰に生きる「トーレスの意思」
これからリリースされる『8』のWings of Theve(シーヴの翼)自体が「実在しない伝説を、士気を維持するために作ったもの」として「存在しない英雄」の名を背負い、その虚構を「真実」にするために戦うキーワードとなっている。

トリガーによって砲撃を阻止され、アリコーンも沈没し、本人も死亡した。ところが残党は工作員として世界中に配置されているという部分だけは、別の形で残っている可能性がある。
「人闘のデータが機械に残る」ようにトーレスの場合は「人間の思想とネットワークが残る」とするならトーレスの思想をまだ信奉していたり、アリコーン事件の復讐を考えている者。
あるいは、その「過去」と決別しながら軍内部に潜伏したまま生き延びる者がいるということになる。
もしかすると、「英雄(特異点)を作る情報操作」や「戦争を作る火種」に近付くと、トーレス艦長と共に生きた残党が加担していることも有り得るのかもしれない。
FCU(中央ユージア連合)の脆さもあるが、個人的に主人公たちの拠点が難民を抱えて逃げ惑う旧式空母「エンデュアランス」であることも個人的には着目している。
もしかすると、傍にアリコーンの生き残りが潜んでいるかもしれないのだから。
