ゲーム 作品解説

『ACE COMBAT 8』に向けて前作「SKIES UNKNOWN」とは何だったのか語る会。フギン&ムニン戦と軌道エレベーターを昇る意義について

――人間が空を取り戻すまで

『ACE COMBAT 7 SKIES UNKNOWN』の物語を振り返ったとき、終盤の構成には少し不思議なところがある。

ミハイ・ア・シラージを倒し、アーセナルバードを落とす。そして最後に、フギンとムニンという二機の無人機を撃墜する。
ここまで来れば、物語上の決着はついたように見える。
ところが、その後にもう一度、軌道エレベーターへ向かい、残存する無人機を排除するミッションが入る。一種の残党狩りだ。

ゲームとしては「ラスボスを倒した後のもう一仕事」に見えるが、直前まで高まっていた熱量もあったからこそ、どう見ても「カタルシスを遮断させるブレーキ」になっている。
しかし、この仕掛けこそ『ACE COMBAT 7』という作品を考えるうえで必要になる。なぜなら本作が最後に描いているのは、「AIに勝った人間」ではなく、AIを倒した後もなお、続いていく「空の未来」だからだ。


ミハイという天界の王であり「人間」の終着点

『ACE COMBAT 7』におけるミハイは「人間が操縦する戦闘機」という、シリーズが長く描いてきたエースの象徴である。
制作陣もミハイという老パイロットを通じて「無人機の時代が来ること」を描き、物語構造としてもプレイヤーとミハイは「有人機」側に立ち、「無人機が台頭する未来」と対比されている。
だからトリガーがミハイを倒すことには、単なる宿敵の撃破以上にミハイが手を貸してしまった無人機の未来において「人間が操縦する戦闘機は、まだ空を飛べるのか?」という問いへつながる。

ミハイは老いているが、その技術は衰えていない。
彼は「人間が飛ぶ」という時代の最後の完成形として立ちはだかる。
ロングレンジ部隊の隊長ワイズマンはミハイに討ち取られ、トリガーはそのミハイを撃ち落とそうとする、まさに人間vs人間である。

そして、その次に現れるアーセナルバードは、ミハイとは性質がまったく違う。ここで敵は「パイロット」から「人間が作った戦争システム」へ変わる。しかも軌道エレベーターそのものも、単なる軍事施設ではない。
本来はユリシーズ災害からの復興を目的とし、宇宙太陽光発電などを利用して各国へエネルギーを供給する国際共同事業。
つまり、人類が協調して未来を切り開くための技術だった。

ところが、それが戦争に組み込まれ、ここに『ACE COMBAT』の技術観として「技術」そのものは善でも悪でも位置づけられないことを示した。

人間が何のために使うかによって心持ち次第。その紙一重で「復興の象徴」にも「戦争の兵器」にも映ってしまう。
作中で語られた「ハーリングの鏡」だ。

公式側も本作のテーマとして、軌道エレベーター、無人戦闘機、学習型AIというようやく時代が追い付いてきたが「現実世界でも進歩している技術」を挙げている。
アーセナルバードはその象徴で、かつてのアークバードも兵器に歪められたように、人間が作った未来に向けたはずの技術が、人間自身に牙をむいている歴史が紡がれ続けた先に、人間が「戦争と技術」によって空をどう変えてしまったかという物語が記されたのだ。


そして、フギンとムニン

『ACE COMBAT 7』の最後に待っているのが、ミハイを継いだ「フギンとムニン」
北欧神話のフギンとムニンは、オーディンに仕える二羽のワタリガラス(レイブン)で「思考」と「記憶」を意味する彼らは、世界を飛び回り、見聞きしたものをオーディンへ伝える役割(ロール)を持つ。
『ACE COMBAT 7』のフギンとムニンもまた、単なる無人機ではない。
彼らはミハイの戦闘能力をデータとして受け継ぎ、戦闘を通して学習し続けている。よってミハイ本人を倒しても、ミハイの「経験」は死なない。
肉体は失われても、戦闘能力はデータ(電子)になる。
そして、データは機械に移植され、学習する。これは「人間のエースが機械に負ける」という話より、もう一歩先にある人間の「エース」そのものが、機械の進化の材料になるということ。

だからフギンとムニンは、ある意味で「ミハイの亡霊」であり彼の執念の「オーディン」であったはずの「天界の王ミハイ」そのものは倒されても、彼が積み上げた「空の記憶と思考」として電子化され、機械の中に残ったそれと最後に対峙する。
それは、これからの「ストレンジリアル世界を覆い尽くそうとしている暗雲
(Electrosphere/ACE COMBAT 3)」
そのものだ。

君も電脳化(サブリメーション)という言葉を知っているだろう。
人間の精神や心、魂といった
物理的な存在ではない情報だけを抽出し、
電子によるネットワーク上で
生命として起動させる技術だ。

アビサル・ディジョン

「SKIES UNKNOWN」とは何なのか

そこで、タイトルの『SKIES UNKNOWN』が効いてくる。
直訳すれば「誰も知らない/未知の空」

しかし本作における「未知」は、単純に「知らない場所」という意味ではないだろう。むしろ人間たちがこれからどんな空を作ってしまうのか、誰にも分からないという意味に近い。
本作の公式サイトのキャッチコピーも

「願い、救い、痛み、恐怖、空はひとつにつながらない」

これはまさに本作の世界を表しており、
まさに同じ空を飛んでいても、各々の人間が見ている空/ものは違う。

作中もヒロインなのかは微妙だがムービーパートのメイン格に近いコゼット王女にとってはエルジア姫君として自国を擁護し、ハーリングの意思を確かめた後に最終的には「空は人々をつなぐものである」として「Can you hear me (聞こえますか?) 」と呼びかける。

アーセナルバードは与えられたロールとして、戦争を遂行しながら生存本能に従う空の守護者であり、ミハイにとっては、自らの存在意義や技量を証明する場所。そしてトリガーやカウントにとっては、仲間を救い、敵を撃ち落とし、自分自身の存在を証明する場所だった。
そして無人機にとっては、データを処理し、戦闘経験を蓄積するための場所になる。

空は一つなのに、その意味は一つではない。
だから「SKIES」は複数形なのだ。

「未知」なのは、空そのものだけではない

『ACE COMBAT 7』の空は、ぶっちゃけると最後まで「未知」のままだ。
なぜなら、技術が進歩するたびに、人間が空に対して持つ意味も変化する。
それはこれからも変わらないからだ。

スクラップクイーンの爺ちゃんが嘆いたように、有人戦闘機から無人機の学習型AIの搭載。国家の方針転換による軍備や軌道エレベーター。
これらはすべて、人間が空との関係を変えていく技術だ。
だから本作における「未知」は「何が空にいるのか分からない」に限らずに「空がこれから人間にとってどんな景色になるのか、『未来が何になる』のか分からない」という意味なのだろう。

みんなが待っています 暗い世界には灯火が必要です

コゼット王女

そしてこれは、開発側が掲げた「空の革新」というテーマともつながる。『ACE COMBAT 7』は、雲の内部まで表現し、気流によって飛行そのものを変化させることで、「空そのものをゲームの舞台として革新する」ことを目指した作品でもあった。つまり本作は、物語だけではなくゲームシステムそのものでも「今まで知らなかった空の『現実』」を作ろうとしていた。

それは前回の記事でも話したが「ブリーフィングの語られた内容通りに戦争遂行されることこそ、御伽噺である」というのも、結果的に賛否両論を招いたが、我々が見据えなければならないものとして見通しの立たないものとの対峙、すなわち「未知の未来」という「意味合い」は同じなのだ。


フギンとムニンを倒した後も終わらない

ここで問題になるのが、フギンとムニンを撃墜した後の展開。
物語のクライマックスとして考えれば、フギンとムニンを倒した時点で終わってもおかしくない。むしろ、そこで終わった方がテンポはいい。

しかし本作は、あえてもう一度軌道エレベーターへ戻る。
フギンとムニンを倒したからといって無人機という技術が消滅するわけではない。戦争によって生み出された兵器も、破壊された都市も、失われた命も戻らない。そして技術そのものを消すこともできない。
だから最後にトリガーがやることは「AIの親玉を倒す」ことではなく「戦争」を終わらせること。『エースコンバット7』はこれまでと違ってラスボスを倒せば世界が元通りになるという「英雄譚」ではない。
一つの脅威を取り除いたあとにも、現実は残る。

その現実を「再定義」するために、我々は軌道エレベーターを昇らなければならないのだ。


軌道エレベーターを「上る」ということ

最後の演出で非常に重要なのが「上る」という動作。
軌道エレベーターは、本作において最初から最後まで存在している。
それは戦争の原因にもなり、エネルギー供給のための施設でもあり、アーセナルバードや無人機と結びつき、最後には「灯台戦争」という終結地点になる。つまりこの塔は「人類の未来そのもの」を象徴している。

人間は技術によって高みへ行こうとする。宇宙へ行こうとする。新しいエネルギーを得ようと、新しい世界を作ろうとする。
しかし、その技術は同時に戦争にも利用されてしまった。
だから最後にトリガーが軌道エレベーターを上るというのは「人類は未来へ進むことをやめない」という演出にも見えるが、問題は、その未来が善いものになる保証などない、それでも進み続けるという意思表示だ。

ある者はみんなを導きます
自ら先頭に立ち 道を照らす
その背を追う者は思うのです
「あの人についていけば大丈夫」

デイビッド・ノース

ダークブルーの空は「未知の世界が広がっている」
フギンとムニンを倒したあと、トリガーはもう一度空へ戻る。ここが本作の最後の大きな反転で、物語の中盤以降、空はどんどん機械化されていった。しかし、本編の最後に画面へ戻ってくるのは「人間が操縦する飛行機」と「人間同士の通信(生き延びたカウント)」である。

「上の連中が待ってるんだ。お前を死なせるわけにはいかねえ」
「トリガーを見上げてるよ。奴はいつも、俺の頭上を飛んでやがる」

カウント

これは「人間が機械に勝った」という単純な勝利宣言というわけではなく、「それでも人間は、この空を飛び続ける」という宣言に近い。

ミハイが象徴していたのは「人間のエース」であるが、フギンとムニンが象徴していたのは「人間の経験が機械へ継承される未来」という二項対立を描いた。
そしてトリガーはその両方を相手取った経験をして、最後まで自分自身の意思で飛び続け、初めは反抗的だったが彼を信頼するようになり、それについていったカウントが生き残ったこと。ここに彼らの戦い抜いた意味がある。

クイズにように答えが1つとは限らない時代です
灯りを掲げて導く者が、英雄として求められています

デイビッド・ノース


「未知の空」に答えは出ない

『ACE COMBAT 7』のエンディングは、未来について明確な答えを出していない。

無人機は悪だ、とも言わない。それは不可逆だから。
だから、AIは危険だから排除すべきだ、とも言えない。

人間の有人機が永遠に空の主役である、とも言わない。
むしろ逆で、これから何が起こるか分からない。

スクラップクイーンの爺ちゃんが言ったように技術の進歩は侮ってならず、進歩は戦争も変化させる。

人間の役割も変わる。
そして空そのものの意味も変わっていく。
それでも、人間は暗雲の中でも飛ぼうとする大馬鹿野郎(Daredevil)が必要だ。
だから「SKIES UNKNOWN」なのだ。

今日も新しい難民たちが到着し
そして王女様は星を眺めてる
ダークブルー
さらにその高みへ

スクラップクイーン 


エンディングでトリガーが上っていく意味

今回の記事として、以上の内容をまとめて見ると、フギンとムニン撃破後の最後の上昇も一つにつながる。
ミハイは言ってしまえば老いて朽ちるその時まで「空に己の居場所」を求めようと執着したクソ老人。アーセナルバードは平和から戦争へと歪められた巨大な機械。フギン&ムニンは人間の経験を取り込んで進化する機械で、倒しても戦争の結果(電子データ)は残ってしまう。
それは決して否定できないし、覆すことはできない。
時代には抗えないからだ。

それでも人類は未来へ進もうとするトリガーはその未来の空へ向かう。
空や闘いに囚われたミハイやトーレス艦長とも違う、人間自身の手に取り戻す灯火だ。

こう並べると、終盤に戦ってきた意義や構造はブリーフィングでは説明されないものであることが分かる。
最後に倒すべきものは全てが片付く「絶対敵」ではない。
未来を「戦争だけのもの」にしてしまうことだ。


だから軌道エレベーターを破壊するのではなく、その場所を守り、そこから再び空へ向かう。
本作が技術そのものを否定していない。
彼らが戦ったのは主従関係が逆転して仕えるべき主神(ミハイ)を学習し終えて切り捨てるようなワタリガラスにではなく、自らの手に未来を委ね直すためのものだ。


「空はひとつにつながらない」

『ACE COMBAT 7』は、空を飛ぶことを自由の象徴として描きながら、同時に「空を共有しているから人間同士が理解し合える」とは決して描かなかった。

同じ空の下でも、敵と味方は違う。人間とAIも違う。兵器を作る人間がいれば、それによって被害を受ける人間がいるように。
それぞれが別々の空を見ている。

だから「空はひとつにつながらない」
それでも、トリガーは飛び続ける。
誰かが完全な答えを与えてくれるわけではない。
昏い時代にどこへ向かえばいいのかも分からない。

それでも、自分で空を選び、自分で飛ぶ。

それが『ACE COMBAT』シリーズにおける「真のエース」の存在意義なのではないだろうか。
未知を「飛ぶ」こととは、そこが見通しの立たない「未知の世界」だからこそ「偽物のエースの翼」ではなく「灯火を掲げた翼」が必要になる。
『SKIES UNKNOWN』というタイトルは、そんな人間の姿そのものを指しているのだ。

「聞こえますか」
「聞こえるかね。三本線のパイロット」

『ACE COMBAT™ 7: SKIES UNKNOWN』 ストーリートレーラー(Dark Blue)

Next Stage→『ACE COMBAT 8 Wings of Theve』

「お前にとって機体は肉体の延長だ」
「何処までも旋回し続け、何処までも上昇し続ける」

「空はひとつにつながらない」

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