ゲーム 作品解説

『Life is strange』考察 マックスによる「アルカディア・ベイを犠牲にする」か否かの選択について

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『Life is strange』考察 マックスによる「アルカディア・ベイを犠牲にする」か否かの選択について

前回ではレイチェルという人物像を通して描かれたテーマを語ってきましたが、彼女に代わって登場するのが無印ライフイズストレンジの主人公であるマックス・コールフィールド。

彼女は授業中に何故か「時間を巻き戻す」という特異な能力に目覚めています。プレイヤー視点で言われるのが、シリーズが進む毎にマックスの力だけ特別過ぎないかという意見で、捉え方次第ではライフイズストレンジという作品の物語は、時間を歪めたことでアルカディア・ベイを滅ぼしかねない危機が迫っており、それを止めようと試みるも、最終的には大きすぎる力の代償を払うというものでした。

ただ、本当にそれだけだったのか?

これを紐解いていきたいと思います。

マックスは「悪夢」で何を見せられていたのか

まず、最後のチャプターである「悪夢」のパートが結局どういう意味合いを含んでいたのか。

このプレイヤーの疑問を解消する答は用意されてません。なので、ここは私的な見解となってしまいますが、おそらくマックスがどのような人生を歩んできたのかという道を振り返ること。

つまり、各々の人物たちに時間を巻き戻す力を行使したことで生じた「マックスとの関係性の振れ幅」が表現されていたのだと思われます。

フランクの豆やらネタ要素も取り入れてますけど、割と無意味な挑発として正当にキレられてましたし、それは本人も気にしていたのかもしれない。ネイサンはマックスの視点からではどのような感情を抱かれていたのか不明ですが、ジェファソンが元凶だと突き止めるまではレイチェルを殺めた猟奇的な人物とし警戒してたので、その名残かもしれない。

マックスに対するローウェンやジェファソンの執着心、ケイトの自殺を止めたのは何のためだったのかという感情など、マックスが意識しないように、あえて考えないようにしてきた自分を取り巻く人間関係の負の側面。自信の無さやコンプレックス、憧れなどを反映したあり得たかもしれない関係の可能性。それが夢の世界で表出化していたのだと思われます。

いずれにせよ、ここの受け取り方として重要だったのは、マックスは決してノーリスクかつ「時間を戻しているわけではない」こと。

時間を巻き戻している力が描写され、そこから写真を通して「過去の自分に時間旅行する力」をマックスは手にしていますが、これらの力は同質のもので、そのすべては「プレイヤーキャラクターとしてのマックス」が時間を巻き戻す力で「その時間軸にいる別世界のマックスに乗り移る」ということで成し得たこと。

彼女の力の正体は、それまでの自分を世界に置き去り(犠牲)にすることで、

別世界の自分に乗り移ってやり直すものとして明かされたことです。

多次元世界によって積まれた「代償」

ケイトを救ったこと、天敵であるビクトリアの内面を知れたこと、レイチェルの死の原因に迫ってジェファソンを捕えることができたなど、ここまで様々な冒険を重ねてきましたが、事の発端はクロエを救ったことが始まり。

クロエの父親を生かそうとした世界であるチャプター4序盤。

そこで憑依されたマックスはボルテックス・クラブに所属して交友関係が一変しているなど割とイケイケの学生時代を過ごしたようです。クロエに対する罪悪感という意味でも人生経験が異なっており、そこで人柄が左右されたというのもあるかもしれませんね。

マックスの選択肢がゲーム上の物語の展開を分岐している形式を採っていましたが、おそらく作中最大の種明かしが「もう一人のマックス」や数々のキャラクターたちから受ける罵倒。時間を巻き戻して選択をやり直すために、力の使い方として「自分自身の欲望のため」に使っているに過ぎないという葛藤を指摘しており、特にもう一人のマックスは自分を置き去りにしたと怒りを露わにしました。

なぜなら、起きてしまった出来事は決してなかったことにできないのだと突きつけられてしまったのがカオス理論による代償であり、ダイナーで見捨てられてしまうのかと町の人々が訴えかけているのも、あの時点では彼らは主人公であるマックスが選択するか否かという判断材料に過ぎないです。が、この未来を知り得ているというのも「プレイヤーキャラであるマックス」が過去に戻ってしまったことで取り残された抜け殻のマックス自身。そして「アルカディア・ベイの犠牲を選ぶ」とハリケーンを避けられなかった人々の未練が現実のマックスに流入してきて描かれていたのだと思います。

衣装がこれまで常用してきたマックスの姿であることも、それまでプレイヤーが捜査してきて使い捨てたマックスだったという表現だったのだと思われます。

結果的に行動や選択の結果から逃げ続けてきたツケとして悪夢の世界に幽閉され、それを突き付けることで彼女に最後の選択を迫ります。

「アルカディア・ベイを犠牲にする」

マックスがジェファソンと接触しないように過去に戻った時、あれからクロエがデイビッドを説得して二人で海岸に移動しているところで我々が捜査しているマックスの意識が戻ってきました。

クロエは目覚めたなと微笑んでいますが、未来からやってきて記憶を失ったマックスの傍らにいる間にどのような感情を抱いていたのかなど、空白の時間の二人が語られることはありませんでした。

アルカディア・ベイを救うために過去に戻ってなかったことにする選択肢も、おそらく本当の意味でアルカディア・ベイを救っているというわけではない。マックスが生きていく人生(世界)を、真の意味で選択することを迫るものであり、あの世界のハリケーンを消してしまうというものではないと思われます。

同様にあそこでクロエを犠牲にしようが置いてきた世界そのものは存在し続け「時間を超えて置き去りにされたマックスや世界そのものが消えるわけではない」です

しかし、これもマックスはアルカディア・ベイを救うことを選んでしまったので、クロエがあらゆる困難を乗り越えて自分を救ってくれたマックスとの別離を意味しています。

それは、クロエにとっての唯一人のヒーローであるマックスを失うことを意味しており、同時にマックスにとっての無二の存在であるクロエと交わる人生を選ばなかったことになります。

マックスの視点では二度とクロエの人生と交わることがない選択を意味しているので、プレイヤーも感情移入していましたが、あの選択肢で「クロエを犠牲にする」の本当の意味とは、選ばれなかったクロエは嵐によって崩壊した世界のまま、何が起きたのか把握できない記憶を失ったマックスと共に本当の孤独を背負い続けることになります。

それでも救える多くの命を救って、二度と交わらない人生を歩むのか?

『ライフイズストレンジ』シリーズを通してクリア後の「パラレルワールド」による分岐の確認というのも、最初に選んだ道こそが人生であり「そこを起点に物語をやり直すことはできない」という意味で「真に過去に時間を巻き戻して、正しい選択をすることは決して叶うことがない」というマックスの能力に対する皮肉であり、伏線だったのかもしれません。

続編シリーズを通してマックスがどちらの人生を選んだのかという問いかけから世界が別れており、マックスの選択を通してこのシリーズが築かれていると言っても過言ではないでしょう。

何かを求めながら「誰」と共に歩み、「誰」と二度と交わることのない道(人生)を行くのか。

その選択肢があの世界の根底的なテーマなのかなと思うところはあったというお話でした。

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