小説

灰塵の如き少年時代

ブロローグ-いつものお祈り-

「我々は罪人だ。ゆえにその罪をそそぐため、私たちは祈りを捧げなければならない」

「はい、神父様」

 しゃがれた声と共に年老いた白髪の老人が教壇から聖書を取り上げた。
 ページを捲る手は細く枯れた木の枝のようだ。本が捲られるたびにインクの匂いがやけに鼻につく。
 周囲に倣って祈りのために膝をついて目を閉じようとするが、退屈のあまり欠伸してしまう。

 すると、横から腕をつねられた。
 僕を見下ろしている母さんは、顔をしかめて睨んでいる。肩を竦めて手を組み直す。
 
 そう、この時間、いつもの聖書の話。
 これが世界でもっとも清らかで、素晴らしいものであると母たちは信じてる。

 こんな話を聞くより楽しいことなんてたくさんあるのに、どうしてもそれを認めてくれないのだ。
 ここに集った人間たちの感嘆している声や息遣いにうんざりする。

 こんな大昔の人が書いた物語をどうしてありがたがるのか、僕にはわからない。
 だから代わりに、ダスティからもらって先日読んだ本の物語を情景として思い浮かべた。

 僕は頭の中でずっとこの遊びをしている。
 僕は物語が好きなのだ。
 母たちのように、ありふれた言葉によって綴られた、つまらない話は好きではない。
 神とかいうヤツのことは置いといて、人間たちがわざわざその存在をありがたがる気持ちは理解できない。

「……そうして、主は『あなたの罪は赦された』と告げられた」

 ———神なんていないのに、罪はいったい誰が許してるのだろう。

「そもそも罪は誰が決めたんだ」
老人のしゃがれた声を聴くたびに、口にしてしまいそうになる

でもそんなことは母の前では言わない。
本当のことを言って意地悪するより、
母さんが何も考えずに幸せでいられるほうがいいからだ。

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